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レジリエンス研究について

 レジリエンスとは、ストレス状況の中でうまく適応し、心理的な傷つきから立ち直れる力のことを指す概念です。定義は様々ありますが、「困難または脅威的な状況にもかかわらず、うまく適応するプロセス、能力、あるいは結果のこと(Masten et al., 1990)」という定義がよく用いられています。心の“強さ”にかかわる概念は、コーピングやハーディネスなどレジリエンスの他にもたくさんありますが、レジリエンスは「しなやかさ」とも訳されるように、傷つかず落ち込まない鋼のような強さではなく、傷ついたあとに回復できることや、傷つきながらも進んでいけるような、やわらかい強さであるとイメージできます。

 

 これまでの研究から、レジリエンスは個々人の有する「レジリエンス要因」によって導かれることが明らかになっています。レジリエンス要因として見出されている要素はたくさんあり、個人の持つパーソナリティ要因(衝動コントロール、好ましい気質、共感性、ソーシャルスキル、自立性など)もあれば、環境から提供される環境要因(家庭環境、教師、情緒的サポートなど)もありますが、こうした様々なレジリエンス要因の中の何が実際にレジリエンスを導く要素となるかは、人によって異なります。「〇〇と□□を身につければ、誰もがレジリエンスが得られる」というようなシンプル答えがあるわけではありません。

​ 私はもともと、「人はどうしたらレジリエンスを高められるのか」という思いを持って研究に取り組みはじめました。国内外では、上述したような好ましいレジリエンス要因を身につけることを目指す教育・介入プログラムが多く開発されています。そうした介入方法を見る中で、次第に「レジリエンス要因は本当に誰もが同じように身につけられるのだろうか」という問いを抱くようになりました。パーソナリティ研究の文脈では、人のパーソナリティのうち、特に気質的な側面については遺伝的な影響が強く、変化しにくいことが言われています。レジリエンス要因についても、その全てを誰もが身につけられると考えるのではなく、身につけやすい要因と、変化しにくい要因を明らかにすることができれば、より効果的にレジリエンスを高めることができるのではないかと考えました。そうした意図で開発した尺度が、二次元レジリエンス要因尺度です。この尺度の開発の過程や、その後の研究については「レジリエンスは身につけられるか」(東京大学出版会)にまとめましたので、詳細はそちらをご覧ください。

レジリエンス研究について

二次元レジリエンス要因尺度

 二次元レジリエンス要因尺度は、個人の持つレジリエンス要因を、持って生まれた気質と関連の強い資質的レジリエンス要因(資質的要因)と、発達の中で身につけやすい獲得的レジリエンス要因(獲得的要因)に分けて捉える21項目の尺度です。

 尺度項目は、

平野真理 (2010). レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み―二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成― パーソナリティ研究, 19, 94-106.

で確認いただくことができます。教示についてはこちらをご参照ください。信頼性・妥当性についてはこちらこちらの論文で検討しています。

 おかげさまで、多くの研究で活用いただききました。これまでに二次元レジリエンス要因尺度を用いた研究のうち、公表されたデータについては、こちらのレビューにまとめさせていただきました。

 本尺度を研究で用いる場合、特に許可は必要ありません。出典を明記していただければ、自由にお使いいただければ幸いです。ただし、尺度得点の理解にあたっては以下の点について、ご留意いただきたくお願いいたします。

  • レジリエンス要因尺度は、個人がそれぞれのレジリエンス要因をどの程度有しているかを測定するものです。上述したように、個人のレジリエンスはいくつかのレジリエンス要因の相互作用で導かれるので、レジリエンス要因の和が高得点であることと、個人のレジリエンスの高さは必ずしもイコールではないことにご注意ください。

  • 本尺度は個人内のレジリエンス要因のバランスを検討することを主目的とした尺度です。各年代の平均点については書籍に掲載していますが、平均点よりも高いか低いかで個人のレジリエンスを評価的に判断することや、数値のみで個人間の単純な比較を行うことは避けてください。

 

なお、バックトランスレーションをした英語版については公刊されておりませんが、

Hirano, M. "Validation of the Bidimensional Resilience Scale for North American College Students: A Classification of the innate and acquired factors". The 7th European Conference on Positive Psychology, 2014, PS3.

において学会発表を行っております。ご利用になりたい方は、こちらの項目をお使いください

二次元レジリエンス要因尺度

レジリエンスを「高める」から「発揮する」へ
 ―高い/低い から脱却し、多様性という理解に立つ

 上記の尺度を用いて、資質的要因をあまり持たない人(いわゆる「弱い」人)がレジリエンスを高めるにはどうしたらよいかを求めて研究を進める中で、そうしたの低い人たちは、資質的要因の豊かな人とは異なる方法で立ち直っているということがわかってきました。つまり、傷つきからの立ち直りや適応のかたちは多様であるということです。レジリエンスは本来ひとりひとり異なる要因によって、異なるプロセス、および異なる方向性をもつものであるはずで、単純に「高い/低い」では比較できないものです。そう考えると、「弱い」人に、「強い」人と同じような回復を求めることは、支援の方向性として効果的でないように思われました。

 こうした気づきから、レジリエンスを「高める」ことを目指すよりも、すでに個人が有しているはずの、その人なりのレジリエンスへの気づきを促すことで、レジリエンスを「発揮する」ことを目指す介入のあり方を考えるようになりました。レジリエンスの臨床心理学的アプローチにおいては、適応的なスキル・知識を得ることによりレジリエンスを高めることを目指す介入が中心となりやすい一方で、すでに個人が有しているはずのレジリエンスへの気づきを促すことで、レジリエンスを発揮することを目指す介入の方向性も存在します。人は多かれ少なかれ、時に自分では気づかないうちに、ストレスに自分なりに対処しながら生きてきた歴史を持っています。そうした自分なりのレジリエンスへの気づきを促し、発揮できていない場合には、再び発揮できるように調整していくアプローチこそ、レジリエンスを基軸とした介入の本来のあり方であると考えます。もちろんこうしたアプローチは、これまでの支援現場において実践されてきたことだと思いますが、レジリエンスを「高いー低い」と一義的に表現してしまうことによって、レジリエンス概念の本質が見えづらくなっているのではないかと思われます。

レジリエンスを「高める」から「発揮する」へ

レジリエンス・オリエンテーション

 そうした視点から、人それぞれのレジリエンスの多様性を捉えた研究の一つが、レジリエンス・オリエンテーションです。レジリエンス・オリエンテーションは、提示されたストレス場面への反応から、その個人が「どのような回復を、どのように達成しようとするか」というレジリエンスの志向性を読み取るものです。12,000データの分析から、回復の志向性として「復元/受容/転換」、回復の手段として「一人/他者/超越」というカテゴリーが見出され、オリエンテーションは9つのマトリクスで表現できることが見出されました。

​ レジリエンスは、ストレス状況下で適応できている状態のことですが、どのような状態を適応と考えるかは、社会の価値観よって規定されてしまっています。そのため、社会の価値観にそぐわない状態は、それが個人にとって適応状態であったとしてもレジリエンスとは認識されません。このことは、レジリエンス概念が西欧の価値観の中で発展した概念であることとも関係しています(Unger, 2008)。しかし、何を適応として捉えるか、どのような適応を目指したいのかといったことも、本来は人によって様々であり、尊重される必要があると思われます。現在、こうした個人のレジリエンスの多様性をそのまま捉え、記述できるツールの開発を進めています。

 レジリエンス・オリエンテーションの詳細については、こちらの論文をご覧ください。

平野真理・綾城初穂・能登眸・今泉加奈江 (2018). 投影法から見るレジリエンスの多様性――回復への志向性という観点 質的心理学研究, 17, 43-64.

レジリエンス・オリエンテーション

レジリエンスを促進するための実践

 これらの研究知見を踏まえて、レジリエンスを促進するためのワークを実践しています。研究フィールドとしてご協力いただける方々を募集しています。ご関心のある方は、こちらからご連絡ください。

対面ワークショップ

 尺度を用いた自己理解のワーク

 投影法を用いたワーク

 描画・写真を用いたワーク

 グループワーク  など

 

〔これまでの実践対象〕

 小学生、中学生、高校生、大学生、一般

 バレリーナのためのレジリエンス

 対人援助職のための研修
​ 子育て中のママのための講座

Web・アプリを用いたセルフワーク

 

レジリエンスを促進するための実践
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